この事例の依頼主
40代 男性
相談前の状況
H9からR1まで,住宅ローンや生活費の補填,遊興費,子どもの教育費のために借入れ,債務総額約2000万円。将来の退職時には退職金が受領できる見込みであり,相談時点で退職したと仮定した場合の金額も相当額に上っていた。また,弁護士に依頼する前に,債務整理を試みており,その一環として本人名義の不動産を任意売却していた。
解決への流れ
相談者は勤務先での勤続年数が25年であったため,破産申立前の時点で解約したと仮定した場合の退職金が約550万円となっていた。現在の裁判所の運用では,破産手続きを開始する時点で退職した場合に支払われる退職金額の8分の1については,債権者への配当原資に充てるための破産財団を構成するものとして取り扱われているが,そうすると,本件の場合,退職金の価値が687,500円となるため,破産財団を構成しない自由財産拡張の申立(99万円まで)をすることで,退職金を全額手元に残すことが出来た。また,弁護士に依頼する前に,破産者自身が本人名義の不動産を売却していると,,売却価格の相当性を疑われることがあるが,本件では,売買契約書・不動産評価証明書・被担保債権額が分かる資料などを提出することで,売買価格の相当性を説明した。これにより,管財人から任意売却の問題性を指摘されることもなかった。
【退職金】自己破産する場合の退職金の取り扱いは,以下の通り,大きく分けて3つのパターンに分けられます。1つ目は,「在職中でまだ退職金を受領していない場合」,2つ目は「退職が間近で,近々退職金を受領する予定の場合」,3つ目は「すでに退職金を受領している場合」です。①在職中でまだ退職金を受領していない場合法律上,退職金債権の4分の3が差押禁止財産となりますので,本来であれば,残りの4分の1は破産財団を構成することになります。しかし,破産者が退職するまでの間に時間がある場合,退職するまでの間に会社の経営状態が変化する,懲戒解雇される,など,破産者が退職金を受領出来なくなるリスクがあるため,4分の1より少ない,8分の1を破産財団として構成するものとされています。②退職が間近で,近々退職金を受領する予定の場合退職が間近であれば,上記のようなリスクが少なくなるため,退職金をもらえる現実味が高くなるということから,4分の1を破産財団に組み入れることになります。③既に退職金を受領している場合既に受領している場合は,退職金ではなく,現金や預貯金として扱われます。退職金の取扱については,各裁判所により運用が異なります。また,退職金の8分の1が20万円以下の場合,全額が自由財産と認められ,破産財団に組み入れる必要がないこともあります。さらに,退職金とそれ以外の財産の合計額が99万円以下であれば自由財産拡張が認められる場合があります。退職金の取り扱いは,複雑ですので,破産を検討しているが,退職金の扱いが気になる方は,一度弁護士にご相談ください。