この事例の依頼主
40代 女性
相談前の状況
ご相談者のA子さんのもとに、突然、某金融機関から「相続債務のお支払について」と題する書面が郵送されてきました。それによると、某金融機関の債務者甲山B子氏に対する貸金債権について、法定相続人であるA子さんに支払請求をするとの内容でした。A子さんは、甲山B子氏とは全く交流がなく、自分とどういう関係の人か全く分かりませんでした。そして、A子さんの実父によると、約40年前に離婚した自分の元妻がB子という名であったので、もしかするとA子さんの実母かもしれないが、元妻が甲山姓になっていたことは知らず、それがA子さんの実母であるとの確証はないとのことでした。そこで、A子さんからその債務の処理に関して依頼を受けることになりました。
解決への流れ
早速、A子さんの戸籍事項証明書・戸籍謄本等を取り寄せ、A子さんの実母B子さんが離婚して除籍されたときのものまでさかのぼり、そこからB子さんの戸籍を順次たどっていきました。B子さんは、A子さんの父親との離婚後、何度も再婚をしては離婚をしていたので、B子さんの死亡の記載のある戸籍事項証明書にたどり着くまでにかなりの時間がかかりましたが、最終的に、A子さんの実母B子さんがが甲山姓になっていたこととその死亡が確認できました。それから、甲山B子さんの最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続人A子さんの代理人として相続放棄の申述手続を行い、申述受理の審判を得ました。そして、相続放棄の申述受理証明を取り、債権者である金融機関に送付して事件処理を終了しました。
被相続人の方のプラス財産よりも負債などのマイナス財産の方が多い場合に、その負債を引き継がないように相続放棄の申述手続をとることはよくあります(相続放棄をすると、負債だけでなく、プラス財産も引き継がれません。)。相続放棄の申述手続を行うことができるのは、原則として、「自己のために相続の開始があった時」から3ヵ月以内です。そして、相続放棄の申述手続は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にする必要があり、申述に際しては、被相続人と相続放棄申述人である相続人との繋がりを示す戸籍事項証明書・戸籍謄本・除籍謄本等を添付する必要があります。これら添付書類の取得に思いのほか時間を要する場合がありますので、相続放棄を考える場合は、準備はできるだけ早めに行っておくのがよいでしょう。なお、今回の事案のように、被相続人との交流が全くない状況のもとで、突然の債権者からの通知によって初めて自分が相続人であることや相続債務の存在を知るという場合が増えています。そのような通知を受けた場合は、放置せず、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談していただければと思います。