犯罪・刑事事件の解決事例
#人身事故 . #慰謝料・損害賠償

【死亡事故】<損害賠償金約3000万円の判決獲得>保険会社から賠償金0円を提示されていたが、裁判で過失割合を逆転(独身男性慰謝料2700万・生活費控除率40%・実年収以上の収入認定)

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木村 治枝 弁護士が解決
所属事務所弁護士法人小杉法律事務所福岡オフィス
所在地福岡県 福岡市早良区

この事例の依頼主

50代 男性

相談前の状況

Bさんは、独身の男性でしたが、彼女もおり、新聞配達の仕事をしながら幸せに暮らしていました。交通事故歴もなく、真面目な青年です。ある日、いつものように原動機付自転車に乗り、朝刊を配達していました。しかしながら、Bさんが交差点を右折する際、対向から走ってきたバイクに衝突し、帰らぬ人となってしまいます。事故の相手方の保険会社は、Bさんの過失が8割であるから、自賠責保険金以上に支払うものはないとして、一切の賠償に応じようとしませんでした。Bさんのお父さんは、Bさんの過失が8割という点にどうしても納得がいきませんでした。Bさんは臆病な性格で、交通事故を怖がっていましたし、日頃安全運転を心掛けていたことを誰よりも知っていたので、Bさんが大きな過失のある交通事故を起こすとは考えられなかったのです。Bさんのお父さんは、交通事故の真相を確かめようと、弁護士に相談することにしました。しかし、「別冊判例タイムズ38号という、裁判官も参照する過失割合についての本があり、そこには右折車の過失8割:直進車の過失2割と書いてある、息子さんの方が悪い事故だ」という回答しか得られません。何軒法律事務所を回っても、どこも同じ回答でした。★法律相談(別冊判例タイムズ38号の過失割合基準を画一的にあてはめるべきではない)Bさんのお父さんが来所され、法律相談を実施しました。お父さんに生前のBさんの話をうかがいましたが、弱者や動物に優しい、とても好青年であることが分かりました。直進車と右折車の交通事故ですと、直進車が優先というのは他の弁護士が回答したとおりなのですが、この判例タイムズ38号という本には、「本書記載の基本の過失相殺率は,各基準表に記載した典型的な事案を前提としたものにすぎず,実際の事件においては,個々の事故態様に応じた柔軟な解決が望まれる。本書を利用する際には,各事故態様の個別性を踏まえ,基準化された基本の過失相殺率とその修正要素の背景にある考え方を適切に応用していくことが,民事交通事件の適切な解決に不可欠なものであり,過失相殺率の認定基準の画一的な運用は避けるべきである。」(東京地裁民事交通訴訟研究会編 別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂5版はしがき引用)と記されていて、事故内容によっては、この本に定められた割合以外での過失割合が認められることを、この本自体が認めています。そこで、過失割合を覆す具体的な根拠はなかったものの、依頼を受けることにし、Bさんのお父さんと共に戦うことにしました。

解決への流れ

1 民事訴訟提起前の調査(1)現場検証受任後、すぐに交通事故現場に向かいました。交通事故現場は、直線道路が長く続く幹線道路で、だいぶ先まで見える、見通しがとても良い道路でした。大きな道路で、直線道路が長く続くことから、スピードを出しやすい道路となっていて、特に新聞配達の時間帯である深夜・早朝は、通行車両も少ないことから、飛ばしている車やバイクが見られました。これだけ見通しの良い道路ですと、Bさんとしては直進してくるバイクの存在に気付いたはずで、臆病で慎重なBさんが、右折を強行するとは考えられませんでした。と同時に、交通事故の現場を見ることで、直進車両の速度オーバーが事故の原因ではないかという仮説が生まれます。(2)科学捜査研究所の見解調査の結果、直進車の運転手は不起訴処分となっていました。検察への連絡をする中で、当該死亡事故の捜査に、科学捜査研究所(通称「科捜研」)が関わっていたことが判明します。科捜研の担当者の話を伺うと、この事故では、直進バイクが時速100㎞程度で走行していたとのこと。そこで、科捜研の見解を根拠に民事訴訟を提起しました。2 民事裁判(1)過失割合ア 被告の主張被告からは、被告に速度超過があったとしても、時速100㎞とする主張には根拠がなく、せいぜい時速10㎞超程度の速度オーバーであり、右折進行車である原告側に大きな過失がある事案であるとの主張がなされました。被告の主張の裏付けとして鑑定意見書も提出され、物理の公式など専門的な説明がなされた上で、原告側に大きな過失のある事案であるとの結論が記されていました。イ 科学捜査研究所からの意見取寄せ被告側提出の鑑定意見書は難解なもので、素人には理解困難な内容となっていました。そこで、提訴前に話をしていた科学捜査研究所の方にこの鑑定意見書を送ってみた所、当該鑑定意見書は内容が間違っている旨の報告書を作成して下さりました。報告書によれば、直進車の速度は時速100㎞~115㎞であり、その時速を割り出した根拠を明確に示してくれています。この科学捜査研究所の報告書を証拠として提出し、被告に反論しました。ウ 判決被告提出の鑑定意見書における速度の推計は相当でないから採用することができず、科学捜査研究所の報告書における速度の推計は、パラメータ(変数)に本件の各証拠から認められる数値を代入してされたものであり、相当であるとして、直進バイクの速度が時速100㎞~115㎞であったと推認され、制限速度である時速50㎞をはるかに超過していたとの認定がなされました。結果、当初Bさんの過失8割と主張されていたものが、判決ではBさんの過失4割と認定され、直進バイクの方が悪いという認定を獲得することができました。(2)死亡慰謝料独身男性の死亡事故の場合、裁判基準の死亡慰謝料額は2000万円~2500万円とされていますが、Bさんのケースでは、この裁判基準を超える2700万円の精神的苦痛の慰謝料額が認められました。(3)死亡逸失利益Bさんは享年24歳の若年労働者であったことから、当時は所得が低かったとしても、本件死亡事故がなければ、賃金センサス男子学歴計全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が高いとの認定を得ることができ、基礎収入額は約523万円と認定されました。また、同棲していた彼女からお話をお伺いし、彼女の陳述書を証拠として提出していたことから、これが採用され、独身男性の基準である生活費控除率50%ではなく、生活費控除率40%の認定を得ることに成功しました。

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木村 治枝 弁護士からのコメント

【解決事例のポイント】① 保険会社提示0円⇒約3000万円の判決② 現地調査や科学捜査研究所との連携により加害者側提出の鑑定書を排斥し過失割合逆転(8割⇒4割)③ 独身男性で死亡慰謝料2700万円④ 独身男性で生活費控除率40%⑤ 実際の収入より高い基礎収入額の認定⑥ どの弁護士にも受任を断られ続けた事案⑦ 画期的な判決であるとして判例雑誌掲載(自保ジャーナル1913号135頁)【コメント】裁判の結果、損害賠償金合計2797万7878円の判決を得ることができ(遅延損害金を含めると約3200万円以上)、自賠責保険金を含めると総額約6000万円での解決となりました。このケースの判決は、画期的な裁判例であるとして、判例誌に掲載されています(自保ジャーナル1913号135頁)裁判基準以上の慰謝料や逸失利益の獲得は、立証の技術もありますが、本件で最も大きかったのは過失割合の判断です。この点については、科学捜査研究所の協力なしに勝ち取ることは困難でした。その意味では、運も味方したといえる判決ではありますが、運を引き入れたのは、どんなに弁護士に断られようとも諦めようとしなかったBさんのお父さんの執念にあると思います。死亡事故というのは、被害者本人の話を聴くことができなくなりますので、被害者のことをよく知るご遺族が、信じてあげるしかありません。死亡事故は特に、人の命が奪われる重大事故ですので、最後まで戦い抜く覚悟と努力が必要です。すべてのケースで立証が上手くとは限りませんが、あきらめずに戦い続ければ、本件のように、故人の無念が晴らせるようなケースもあります。現地調査、警察への聞き込みなど、できることはすべてやることが大切です。裁判が終わり、ご自宅にお線香をあげに伺いましたが、Bさんのお父さんは晴れ晴れとした表情をされていました。