犯罪・刑事事件の解決事例
#ビザ・在留資格

収容令書発布処分差止請求訴訟の係属中に、原告である相談者が退去強制されたことについて裁判所が入管を非難した事例

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関 範子 弁護士が解決
所属事務所やよい共同法律事務所
所在地東京都 港区

この事例の依頼主

20代 女性

相談前の状況

私はA国人留学生で、日本の大学で経済学を学んでいました。日本での生活費の足しにするために、他の留学生仲間数人と、授業が終わった後、エステサロンでマッサージのアルバイトをしていたところ、仲間のうち数人が、入国管理局(当時)に、当該アルバイトが退去強制事由に当たる疑いがあるとして、収容されてしまいました。私は、入管から、資格外活動許可を得て、そこで定められた時間を守ってアルバイトしていたので、大丈夫なはずと思いましたが、収容された友人も、資格外活動許可を得、その範囲内で働いていましたので、なぜ収容されたのか、理由がわからず、もしかして私も収容されてしまうのか、そうなると、大学の出席日数が足りなくなり、卒業できなくなってしまう、と恐ろしくなり、弁護士に相談しました。

解決への流れ

入管に収容されてしまうと、私は大学を卒業できず、今後の進学や就職に大きな影響が出てしまいますので、とにかく収容を避けるため、弁護士には入管に折に触れて申し入れ等をしてもらいつつ、収容令書発布処分差止請求訴訟を提起してもらいました。そして、提訴から1年3か月ほどたったころ、私の尋問期日が予定されることになりました。当初、私は、何があろうと出廷して尋問に臨むつもりでしたが、裁判所で入管職員に身柄を拘束される危険を考えると、だんだん、出廷するのが怖くなってきてしまいました。そのため、尋問期日は、約束を翻し、出廷しませんでした。ところが、結局そのわずか数日後、収容令書が発布され、私は入管に収容されてしまい、10日後にはA国に向けて出国させられてしまいました。しかし、弁護士に依頼していた訴訟の方は、原告である私がいないということで、訴え却下という結論に終わったものの、裁判長が、私には退去強制事由にあたる事実はなく、私を退去強制手続に付したことは違法であると入管を非難したと知りました。

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関 範子 弁護士からのコメント

本件では、入管が、あるエステサロンでアルバイトをしていた複数の留学生について、当該アルバイトが入管法第24条4号イにいう、「・・・報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる・・・」ものと考え、日本に在留する目的がもはや就労であるとみて収容をしていました。その理由は、①当該アルバイトの拘束時間が長く、一見、資格外活動許可で認められている就労時間を超えているように見えたこと、②報酬が高額(時給2500円程)であったこと、そして、③性的なサービスを行う店なのではないかと見られていたことです。しかし、留学生が収容されてしまいますと、学校の授業に出ることができず、単位が取れなくなり、最悪の場合、卒業もできず、その後の就職やさらなる進学等の人生設計に多大な影響が出てしまいます。相談者は、仲間が次々に入管に収容されている状況に強い危機感を抱き、相談に来られました。そこで、将来的な収容の恐れを回避するべく、相談者を原告、被告を国として、収容令書発布処分差止請求訴訟を提起し、その中で、相談者のアルバイトは、入管がいうような、退去強制事由に当たらないことを、具体的な事実を挙げ、証拠によって裏付けをしながら論じました。本件では、①確かに拘束時間はトータルでは長いが、仕事の実働としては、客が来た時のみで、その他の時間は待機となっており、相談者はその時間を大学の課題等の勉強や、仮眠にあてていたこと、給料は実働時間のみについて支払われていたこと、相談者がアルバイトのために大学を休んだことはなく、むしろ高い出席率と優秀な成績をキープしていたこと、②報酬が高いのは、それに見合う高度な技術を要するマッサージを施していたからであること、また、相談者は得た給料を日本での生活費にあてており、A国の実家に送金したことはほとんどないこと、③当該エステサロンは、通常のエステサロンであって、性的サービスは一切ないこと、を丁寧に主張しました。その後、提訴から1年と少したったころに、本人尋問をする期日が設けられることになりました。もっとも、尋問のために裁判所に出廷すると、入管に拘束される恐れがあります。相談者には、そのことを説明し、リスクは覚悟で出廷するか尋ねたところ、相談者の答えは、「出廷して尋問に臨みます」とのことでした。ところが、その後、相談者が、「やっぱり怖いので行きたくない」と変心してしまい、結局、尋問期日には出廷しませんでした。そのため、上記訴訟は、その日に弁論終結となり、判決言い渡し期日が1ヶ月半後とされました。それを待っていたかのように、この日、入管は相談者に対し収容令書を発布、執行して身柄を拘束したうえ、数日後には相談者が入管法違反であることを認定して口頭審理を放棄させ、退去強制令書を発布、執行し、10日後には相談者を出国させ、強制退去してしまいました。その後、本件訴訟の判決が出ましたが、案の定、原告(相談者)が不在のため、訴えの利益を欠く、として却下判決でした。しかし、判決の中で、裁判長は、相談者の稼働時間や大学での成績、出席率等からすると、エステでのアルバイトが留学の特段の支障にはなっておらず、同人を帰国させる理由はないとし、入管が司法判断を待たずに相談者を退去強制させたことを強く非難しました。そのため、本件は、相談者が出国させられていなければ、相談者の請求を認容する判決が出されていただろうと思われます。