15174.jpg
裁判官が「刑期」を間違えて「違法判決」 こんな凡ミスはよくあることなのか?
2013年08月01日 18時50分

「被告人を懲役1年に処する。ただし未決勾留日数中20日を算入する」。

これは、スーパーで566円相当のミカンなどを万引きしたとして、窃盗罪で起訴された被告人に対して、神戸地裁尼崎支部の裁判官が7月5日に言い渡した判決だ。

「未決勾留日数」とは、被告人が逮捕されて拘置所に勾留されていた期間のこと。裁判官は自らの裁量で、この期間(の一部)を「刑に服した」ものとみなして、刑期から差し引くことができる。これは「未決勾留日数」の「算入」という制度で、刑法21条で決まっている。

しかし実は、この被告人は逮捕も勾留もされておらず、取り調べや起訴は在宅で行われていた。つまり、本来は差し引くことができる日数はゼロだったのだ。

この判決ミスの原因は裁判官の勘違いだという。ところが、その場では誰も誤りに気づかず見過ごされてしまったため、兵庫地検尼崎支部が7月18日、「判決は刑法21条に反する」として大阪高裁に控訴することになってしまった——と報じられている。

こんな裁判官の凡ミスはよくあることなのだろうか。また、このようなミスを防ぐ仕組みはないのだろうか。落合洋司弁護士に聞いた。

●裁判官が間違った判決を出してしまうことは、ときどきある

「裁判官も人間ですから誤りはありえます。裁判官が違法判決を出すケースは多くはありませんが、ときどき起きることがあります」。落合弁護士はこう語る。

自身も検事時代、「あわや」というケースに遭遇したことがあるという。「裁判官が、複数の被告人に対し、連続して判決を言い渡そうとした際、被告人を取り違えたのです」。その際は落合弁護士が即座に指摘、裁判官が慌てて言い直したため、違法判決は避けられたという。

裁判には、こうしたミスを防ぐ仕組みはないのだろうか。

「裁判所サイドとしては、まず書記官のチェックがあります」。落合弁護士はこう述べる。書記官というと法廷で記録を取る人——というイメージが強いかもしれないが、その裏では裁判官を補佐し、裁判を円滑に進めるため、幅広い役割を果たしているのだという。

●判決の言い渡しの途中であれば、間違いを訂正できる

また、刑事事件では、担当検察官もミスの低減に一役買っているようだ。

「最近起きた別の過誤判決では、裁判官が、本来付けられないはずの執行猶予を付けてしまった例がありました。こういったミスは、たとえば検察官が『論告の際に、実刑以外はあり得ないことを明確に指摘しておく』ことで、かなり避けられるものです。また、検察官は判決前に『算入可能な未決勾留日数』をメモ書きし、書記官に渡しておくこともあります」

なるほど、裁判は決して裁判官ひとりで行われているわけではないということだ。

「裁判官が判決言い渡しの途中で誤りに気づいて言い直せば、言い直した内容が有効になります。検察官だけでなく弁護人も、誤りに気付けば、言い渡し途中でも遠慮なく指摘して、裁判官に再考してもらうべきです」

確かに、それで違法判決を防げるなら、指摘をためらう理由はないだろう。今回については、ミスをした裁判官に最大の責任があるのは明白だが、チェック役の書記官や検察官も見逃していたということだ。我々にとっても、人間は過ちを犯す生き物、ということを再認識するのによいケースと言えるかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

「被告人を懲役1年に処する。ただし未決勾留日数中20日を算入する」。

これは、スーパーで566円相当のミカンなどを万引きしたとして、窃盗罪で起訴された被告人に対して、神戸地裁尼崎支部の裁判官が7月5日に言い渡した判決だ。

「未決勾留日数」とは、被告人が逮捕されて拘置所に勾留されていた期間のこと。裁判官は自らの裁量で、この期間(の一部)を「刑に服した」ものとみなして、刑期から差し引くことができる。これは「未決勾留日数」の「算入」という制度で、刑法21条で決まっている。

しかし実は、この被告人は逮捕も勾留もされておらず、取り調べや起訴は在宅で行われていた。つまり、本来は差し引くことができる日数はゼロだったのだ。

この判決ミスの原因は裁判官の勘違いだという。ところが、その場では誰も誤りに気づかず見過ごされてしまったため、兵庫地検尼崎支部が7月18日、「判決は刑法21条に反する」として大阪高裁に控訴することになってしまった——と報じられている。

こんな裁判官の凡ミスはよくあることなのだろうか。また、このようなミスを防ぐ仕組みはないのだろうか。落合洋司弁護士に聞いた。

●裁判官が間違った判決を出してしまうことは、ときどきある

「裁判官も人間ですから誤りはありえます。裁判官が違法判決を出すケースは多くはありませんが、ときどき起きることがあります」。落合弁護士はこう語る。

自身も検事時代、「あわや」というケースに遭遇したことがあるという。「裁判官が、複数の被告人に対し、連続して判決を言い渡そうとした際、被告人を取り違えたのです」。その際は落合弁護士が即座に指摘、裁判官が慌てて言い直したため、違法判決は避けられたという。

裁判には、こうしたミスを防ぐ仕組みはないのだろうか。

「裁判所サイドとしては、まず書記官のチェックがあります」。落合弁護士はこう述べる。書記官というと法廷で記録を取る人——というイメージが強いかもしれないが、その裏では裁判官を補佐し、裁判を円滑に進めるため、幅広い役割を果たしているのだという。

●判決の言い渡しの途中であれば、間違いを訂正できる

また、刑事事件では、担当検察官もミスの低減に一役買っているようだ。

「最近起きた別の過誤判決では、裁判官が、本来付けられないはずの執行猶予を付けてしまった例がありました。こういったミスは、たとえば検察官が『論告の際に、実刑以外はあり得ないことを明確に指摘しておく』ことで、かなり避けられるものです。また、検察官は判決前に『算入可能な未決勾留日数』をメモ書きし、書記官に渡しておくこともあります」

なるほど、裁判は決して裁判官ひとりで行われているわけではないということだ。

「裁判官が判決言い渡しの途中で誤りに気づいて言い直せば、言い直した内容が有効になります。検察官だけでなく弁護人も、誤りに気付けば、言い渡し途中でも遠慮なく指摘して、裁判官に再考してもらうべきです」

確かに、それで違法判決を防げるなら、指摘をためらう理由はないだろう。今回については、ミスをした裁判官に最大の責任があるのは明白だが、チェック役の書記官や検察官も見逃していたということだ。我々にとっても、人間は過ちを犯す生き物、ということを再認識するのによいケースと言えるかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る