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新しくできた「障害者差別解消法」で何が変わる?
2013年07月17日 14時28分

6月に閉会した第183回通常国会で、障害者に関する2つの法案が可決された。一つは、「障害者雇用促進法」の改正案。もう一つは、新法である「障害者差別解消法」だ。

この2つの法律の目的はいずれも障害者差別の禁止だが、守備範囲が異なる。「雇用」の分野での障害者差別をなくそうというのが障害者雇用促進法、「雇用以外」の分野での差別を解消しようというのが障害者差別解消法という関係だ。

日本は2007年「障害者権利条約」に署名したが、障害者差別を禁止する法律がないことを国連から指摘されていたため、まだ批准(ひじゅん)に至っていない。今回の2つの立法は、批准に向けた国内法整備という意味合いもあるという。

この2つの法律でどのようなことが新しく規定されたのか? またこれで、障害者差別はなくなるのか? 「働く障害者の弁護団」の代表をつとめる清水建夫弁護士に聞いた。

●障害者権利条約の批准に向けて、一歩前進

「今国会で成立した新法『障害者差別解消法』と『障害者雇用促進法』の改正は、『障害者権利条約』の批准に要求される国際水準に近づく方向に、一歩前進したものであると評価できます」

と清水弁護士は語る。では、それぞれどんな内容なのか? まず「障害者雇用促進法」の変更点について見ていこう。

「障害者雇用促進法の改正では『第2章の2 障害者の差別の禁止等』という章が新設されました」

この新設された部分の中身はどのようなものだろうか?

「募集・採用・待遇において差別を禁止するとともに、障害者でない者との均等な機会を確保するため、事業主に対し、施設の整備を含む『障害の特性に配慮した必要な措置』を義務づけました。これは2016年4月から施行されます。また、さらに2018年4月からは精神障害者の雇用も法的な義務となります」

「障害の特性に配慮した必要な措置」とは、たとえば、車いすを利用する人を雇う場合に、その人が使いにくくないよう机や作業台の高さを調整したりすることをいう。これを事業者に義務付けるわけだ。

●今回の法改正で、解消できていない問題とは?

では、新しく成立した「障害者差別解消法」とは、どんな内容なのか。

「『障害者差別解消法』というのは略称で、正式名称は『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』といいます。

この法律では、行政機関による障害者に対する『差別的取り扱い』を禁止し、また『社会的障壁の除去』を実施するための合理的配慮を要求しています。たとえば、行政サービスを行う際に、障害者が事実上排除されることがないようする、といった労働領域以外での差別解消が目的です。これも2016年4月から施行されます」

清水弁護士はこの2つの法律を評価しながらも、まだ解消されていない問題があるという。

「『障害者雇用促進法』については、障害者雇用を義務付けてはいるものの、それが非正規雇用でもよいとする政府の運用方針は、障害者差別を固定化してしまう可能性がありますね。

『障害者差別解消法』についても、民間の事業者による『差別的取り扱い』を禁止しているものの、『社会的障壁』の除去は努力義務にとどまっています。立法としては、いまだ道半ばといえるでしょう」

このように問題点を指摘している。清水弁護士によれば「今後のさらなる法改正が求められる」ということだが、それだけでなく、本格的な障害者差別の解消のためには、国民の意識の変化も必要だろう。

(弁護士ドットコムニュース)

6月に閉会した第183回通常国会で、障害者に関する2つの法案が可決された。一つは、「障害者雇用促進法」の改正案。もう一つは、新法である「障害者差別解消法」だ。

この2つの法律の目的はいずれも障害者差別の禁止だが、守備範囲が異なる。「雇用」の分野での障害者差別をなくそうというのが障害者雇用促進法、「雇用以外」の分野での差別を解消しようというのが障害者差別解消法という関係だ。

日本は2007年「障害者権利条約」に署名したが、障害者差別を禁止する法律がないことを国連から指摘されていたため、まだ批准(ひじゅん)に至っていない。今回の2つの立法は、批准に向けた国内法整備という意味合いもあるという。

この2つの法律でどのようなことが新しく規定されたのか? またこれで、障害者差別はなくなるのか? 「働く障害者の弁護団」の代表をつとめる清水建夫弁護士に聞いた。

●障害者権利条約の批准に向けて、一歩前進

「今国会で成立した新法『障害者差別解消法』と『障害者雇用促進法』の改正は、『障害者権利条約』の批准に要求される国際水準に近づく方向に、一歩前進したものであると評価できます」

と清水弁護士は語る。では、それぞれどんな内容なのか? まず「障害者雇用促進法」の変更点について見ていこう。

「障害者雇用促進法の改正では『第2章の2 障害者の差別の禁止等』という章が新設されました」

この新設された部分の中身はどのようなものだろうか?

「募集・採用・待遇において差別を禁止するとともに、障害者でない者との均等な機会を確保するため、事業主に対し、施設の整備を含む『障害の特性に配慮した必要な措置』を義務づけました。これは2016年4月から施行されます。また、さらに2018年4月からは精神障害者の雇用も法的な義務となります」

「障害の特性に配慮した必要な措置」とは、たとえば、車いすを利用する人を雇う場合に、その人が使いにくくないよう机や作業台の高さを調整したりすることをいう。これを事業者に義務付けるわけだ。

●今回の法改正で、解消できていない問題とは?

では、新しく成立した「障害者差別解消法」とは、どんな内容なのか。

「『障害者差別解消法』というのは略称で、正式名称は『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』といいます。

この法律では、行政機関による障害者に対する『差別的取り扱い』を禁止し、また『社会的障壁の除去』を実施するための合理的配慮を要求しています。たとえば、行政サービスを行う際に、障害者が事実上排除されることがないようする、といった労働領域以外での差別解消が目的です。これも2016年4月から施行されます」

清水弁護士はこの2つの法律を評価しながらも、まだ解消されていない問題があるという。

「『障害者雇用促進法』については、障害者雇用を義務付けてはいるものの、それが非正規雇用でもよいとする政府の運用方針は、障害者差別を固定化してしまう可能性がありますね。

『障害者差別解消法』についても、民間の事業者による『差別的取り扱い』を禁止しているものの、『社会的障壁』の除去は努力義務にとどまっています。立法としては、いまだ道半ばといえるでしょう」

このように問題点を指摘している。清水弁護士によれば「今後のさらなる法改正が求められる」ということだが、それだけでなく、本格的な障害者差別の解消のためには、国民の意識の変化も必要だろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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