ジャーナリスト・伊藤詩織さんの初監督ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』をめぐって、伊藤さんの性被害訴訟を支えた元代理人の西広陽子弁護士らが2月20日、東京・丸の内の外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を開いた。
内部情報を寄せた捜査員の映像や現場となったホテルの防犯カメラ映像などが、許諾を得ないまま使用されているとして、人権上・倫理上の問題を改めて指摘した。
昨年1月以降、57の国や地域で公開されている映画は、米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている。
西広弁護士は会見で、伊藤さんには世界の映画祭や配給会社に対しても説明する責任があるとうったえた。
●人権・倫理上の問題だけでなく、法的な問題もあるのか
映画は、伊藤さん自身の性被害を描いている。
西広弁護士の代理人をつとめる佃克彦弁護士は、ジャーナリストの守るべき取材源秘匿が映画では守られておらず、そのような問題を指摘された伊藤さんには説明・対処する責任があると主張した。
また、許諾をとっていない素材が使われている映画には、海外での上映などのプロセスにも未解決の部分があるとして、伊藤さんには海外の配給会社や映画祭に対する説明責任があると強調した。
「海外での上映を既成事実化して、私たちからの人権上・倫理上の問題の指摘を封じようとするものだと私たちには映ります。日本上映版だけ再編集するのでは問題の解決にはなりません」(佃弁護士)
この日の会見で、海外メディアの記者からは、伊藤さんが日本の法律にも違反しているのかと質問があった。
佃弁護士は、捜査員らのプライバシー侵害が民法上の不法行為にあたるほか、「裁判以外に使わない」と誓約した防犯カメラ映像を使ったことがホテルとの間で契約違反にあたるなどと説明した。
西広陽子弁護士ら(2025年2月20日/日本外国特派員協会/弁護士ドットコム)
●伊藤さんは「個人特定できないようにする」と考えを示した
この日のFCCJでは、午前に西広弁護士、そして午後になって伊藤さんの会見が予定されていたが、伊藤さんのほうは当日になってキャンセルされた。体調不良によるドクターストップが理由とされる。
出席しなかった伊藤さんは声明を公表。西広弁護士との電話のやりとりの利用について「ご本人への確認が抜け落ちたまま使用し、傷つけてしまったこと、心からお詫び申し上げます」と謝罪した。
また、映像を使用することに承諾のなかった人たちへのお詫びの言葉も記載されている。
映画の最新版では、個人が特定できないようにするという。また、海外で今後上映する場合は「差し替えなどできる限り対応します」とした。
一方、ホテルの防犯カメラの映像については、性被害の実態を伝えるために、どうしても必要だったという。
ホテルから承諾は得られなかったと改めて明言したうえで、ホテルの外装や内装、タクシーの形などを変えていると釈明している。
また、「事実を捻じ曲げる行為」であるため、相手男性と伊藤さん自身の動きは一切変えることはできなかったとした。
「さまざまな批判があって当然だと思います。それでも私は、公益性を重視し、この映画で使用することを決めました」(伊藤さんの声明から)
●弁護士の守秘義務違反は
伊藤さん側からは、西広弁護士らが弁護士の守秘義務を破っているなどと指摘されている。この点を問われた佃弁護士は会見で「私たちは伊藤さんとの間の依頼関係中の秘密は何ら犯していません」と述べた。
西広弁護士らによると、伊藤さん側からは、弁護士の懲戒請求を視野に検討しているという文書が2月7日に届き、弁護士会の紛議調停が申し立てられたという。
この日の記者会見には多くの報道陣が詰めかけ、運営側からフロアで大きな声を出すことを控えるようにアナウンスがあった。
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)