2020年に福岡市の商業施設「マークイズ福岡ももち」で起きた15歳少年による殺人事件から、8月28日で5年を迎えた。
犠牲となった女性の母親は代理人を通じてコメントを公表。「時間が経つにつれ、悲しみは深まり、日常にぽっかり空いた穴は埋まることはありません。悲しみで心が引き裂かれそうになり、考えるほど理不尽で悔しい思いでいっぱいです」と苦しい胸の内を明かした。
また、少年の母親の責任についても言及し、「しっかり、加害者も、その親も、事件に向き合い、反省し、責任を認め、娘に償いながら生きてほしいです。母親に監督義務違反はあります。責任は無いなんて神様は許しません」とうったえている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●少年院を出た2日後に
事件は2020年8月28日午後7時過ぎに発生。当時中学生だった少年が商業施設内の女子トイレで、面識のない女性(当時21歳)を包丁で何度も刺して殺害した。
少年は事件の2日前に九州の少年院を仮退院し、刑務所を出た人などを受け入れる更生保護施設に入ったが、無断で抜け出して、行くあてもないまま事件現場にたどり着いていた。
逮捕後、家庭裁判所に送られたが、逆送(検察官送致)され、福岡地検が殺人や窃盗などの罪で起訴。福岡地裁は2022年7月、少年に懲役10〜15年の不定期刑を言い渡し、その後、判決は確定した。少年は現在、ある地域の少年刑務所に服役している。
●少年の母親の監督責任は?
女性の遺族は2023年3月、少年とその母親を相手取り、殺害行為や子どもの監督責任を問う損害賠償請求訴訟を起こした。
福岡地裁は今年3月、少年に約5410万円の支払いを命じた一方、母親については「(少年が)仮退院直後の更生保護施設入所中に第三者の生命に危害を加える可能性について予見することは困難であった」などとして請求を棄却した。
この判決を受けて、女性の母親は、事件から5年に合わせて寄せたコメントで「人格形成の時期に加害者は母親を含む家族に虐待を受けて育ったのです。その影響は一番大きいと思います」と指摘している。
●国賠訴訟も起こしている
事件をめぐっては、少年院が仮退院前に関係機関と受け入れ体制を十分に調整していなかった疑いも明らかになっている。
遺族はこの点を問題視し、少年院の対応に過失があったなどとして、国家賠償請求訴訟も起こしており、現在、非公開で手続きが進められている。
当時15歳の少年が面識のない21歳女性を殺害する事件が起きた福岡市の商業施設「マークイズ福岡ももち」(グーグルストリートビューより)
●「再び同じような犯罪を犯し、新たな被害者を生む」
事件から5年が経つのに合わせて、遺族が代理人弁護士を通じて出したコメント全文は以下の通り。
<事件から5年が経ちます。 時間が経つにつれ、悲しみは深まり、日常にぽっかり空いた穴は埋まることはありません。 悲しみで心が引き裂かれそうになり、考えるほど理不尽で悔しい思いでいっぱいです。 加害者やその家族は、加害者が犯したことをどう思っているのか知りたいと思うのと、加害者が育った家庭環境や事件に至る背景が、私達遺族には未だに理解できません。 私は心情伝達制度を通じて、加害者に遺族の気持ちを必死に伝えました。 しかし、返ってきたのは酷い言葉でした。 全く反省もせず、このまま刑を終えて世の中に出てくると思うと、恐ろしく思います。 令和7年3月24日の民事裁判の判決では、加害者本人だけに損害賠償の支払いが言い渡され、母親への請求は棄却されました。 私達は納得がいきません。 人格形成の時期に加害者は母親を含む家族に虐待を受けて育ったのです。 その影響は一番大きいと思います。 娘を殺害したときに「母親と重なった」とも刑事裁判で言っていました。 加害者は事件当時、15歳で義務教育も終えていない子供です。 ずっと施設に預けられたままで、福祉を利用して育児放棄をされていたとしか思えません。 同じ親として思うことは、子どもに対して育児放棄をし、その子が事件を起こしたら自分には何の責任もないという姿は、親として間違っているということです。 その姿は、これからの加害者の未来にも影響をもたらすと思います。再び同じような犯罪を犯し、新たな被害者を生むと思います。 しっかり、加害者も、その親も、事件に向き合い、反省し、責任を認め、娘に償いながら生きてほしいです。 母親に監督義務違反はあります。責任は無いなんて神様は許しません。 加害者本人に責任があるといっても、実際には弁済能力なんかないでしょう。支払う意思さえありません。 15歳の加害者の親には責任がないということになると、被害者は実際には何の償いも受けられず見捨てられることになります。 それでいいと考えているのが司法の立場なのでしょうか。ひどい話です。 考えれば考えるほど、悔しくて、悲しくなってきます。 令和7年8月 遺族(母)>